人間閉包

構造の話をする

Complexity102

 今年もコミケ行ったぜ。



 コミケ(Comiket)に出てるサークルのポスターには、すさまじい格差が存在する。けどそれは"神絵師の腕の有無"じゃない。会場を歩けばすぐにわかるが、絵の上手さ(ここではミクロという言葉をつかう)は一定の足切りラインさえ超えてしまえば大した問題じゃなくなる。

 

 とくに壁じゃないサークルのミクロ能力なんてキャップ(頭打ち)されていて、正直なところどれも変わらない。圧倒的な筆致でオタクを引き寄せることなんてできないけど、まあ上手いじゃん? というレベルで横並びだ。

 けれど明らかに目立つポスターとそうでないものはあって、その差はどう考えても思考能力だとしか思えない。

 

 ミクロ能力は十分あるのに余計なComplexityだけ増大させて、コミケの雑踏のなかに埋もれてるポスターを見るたびに、おれは「こいつはおれよりも努力して、おれよりも絵が上手くて、そしておれよりも信念があるのに、おれが何故か持ってるこの無駄な思考がないというそれだけの理由で、果てしない可能性をつぶしているんじゃないか」と恐ろしくなる。

 

 冷静に考えてくれよ。おまえがコミケに10回参加して、そのたびにサークル出店してイラスト集を出して、そしてできるだけたくさんの人に見てもらいたいなと思っている。でもそんなに売れない。せいぜい20部ってとこだ。自分の絵はそんなに下手じゃないと思うのに。そうやってComiketを楽しみながら悶々とした気持ちを抱えて帰る。

 おれは本当に怖くなってきて、昔はじめていったコミケでずっと考えていた。

 "昔から絵が好きだった。絵がちょっと上手くて、褒められて、嬉しかった。できればもうちょっと上手くなりたかったけど、でも自分の才能はここまでなんだと思っている――" そんな気持ちを抱えながら十数年も絵(創作全般そうだが)の本質がComplexityとContrastとColoringとCo-relationだと気付かないやつがいるのか?

 おれは壁サーと大して変わらない画力の島中に立ち尽くして、考え込んでしまった。

 

 何のために。否定するために。

 おれが持っているのかもしれない、才能と呼ぶほど貴重でもないが、けれど歴然と存在している思考能力のことを。

 もしかしたらおれに必要なのは数年間をミクロに費やす狂気だけなんじゃないかという自惚れを必死に否定していた。だってそんなわけないだろ。それはすべてを都合よく捉えるオタクの思い上がりじゃないのか?

 それにおれはCowardなんじゃないって。
 ここにいるやつら全員はちゃんとCoherentで、けれどこれは単純な、至極単純なミクロの限界によってこうなってるだけなんだって。

 

 たとえば自分の絵のコントラストの高さが、低さが、彩度の高さが、低さが、影が、光を受けた線の細さが、太さが、瞳孔の輝きが、肌の艶が、全体の色調が、影色の種類が、誇張が、"あの絵師がやってること"が、キツすぎたと後悔した経験はあるか? もしそれが一度もないのなら、極めて高い確率でおまえの絵にはそれが致命的に不足しているとは思わないのか? 絵の話をしてるわけじゃない。

 閾値を超過する直前が、Complexityの最適量だと思わないのか?

 

 頼むよ。頼むから、それなりに有名なサークルのポスターとおしながきを買って、あるいは印刷して、自分のポスターを印刷して、隣に並べて、自分のポスターが目を惹かない原因について向き合うということをしてくれ!

 スポイトで色を取って、その差について考えて。
 優れたゲームのエフェクトを解析して、真似して。
 線の太さと抑揚を真似して、影と光について考察して。
 そういう作業に従事してくれ、いや、従事していてくれ!

 

 じゃなきゃおれは発狂してしまう。おれがなれたかもしれない可能性に押しつぶされて。おれが狂気的でさえあれば成しえたかもしれない、たくさんのものごとに。

 

 Communicationが優れていたらすでにおまえはその立ち位置になんていない。だから、一人で孤独にComplexityと向き合って、おまえの、おれの創作のなにがCorruptionなのか知らないといけないだろ!

 

 コミケに行ったことがないのなら、とりあえず次のコミケに行ったほうがいい。

 そしたら男性向けR18に行って、ずらっと並んだポスターを見るんだ。そこで残酷だと思えないのなら、おまえはもう救えないかもしれない。

 仮にもそれを見て「搾取」と笑うという視点しか持てなかったのなら、おまえには本当に創作のセンスが無いから一生そのままでいたほうがいい。